2001.01.20
夢のまた夢物語
密林王ターザンさん
「ああライカ!私は一生に一度でいいからライカを手に入れて、思う存分駆使してみたい!」といった書き出しで、或る中堅カメラマンのライカへの思いの丈を綴った手記のことを、45〜6年たった今でも思い出す。当時中学生だった私が購読していた月刊カメラ雑誌「アサヒカメラ」に載った1頁ほどの小エッセイである。その文章は、ライカに憧れ、ライカを崇め、ライカを自分の愛機として好きなだけ使うことが出来たら如何に幸せな人生を送ることが出来るか、という気持ちを溜息交じりに切々と語っていた。
昭和20年代の終わりから30年代の初めにかけたその頃、カメラ少年だった私は渋谷道玄坂にあったモリタカメラ店のショーウィンドウの中に飾られているキャノンの姿に魅せられ、その店の前を通る度にそれを飽かずに眺めていた。キャノンとは、いうまでもなく、35ミリの最高級ビュー・ファインダー・カメラのことで、キャノンとニコンはその当時、最高級カメラの代名詞であった。でも、キャノンもニコンも一般のカメラファンには高嶺の花だった。大学卒サラリーマンの初任給が1万円程度の時代に、キャノンUDはf3.5レンズ付で45,000円、f1.8レンズ付で58,000円、Wsbだとf1.8付でも74,500円、f1.5付だと85,000円もした。(注:カメラ価格は、日本カメラ刊「カメラ年鑑1955年版による。以後文中も同じ。) これでは庶民にはとても手の届きようがなかった。ましてや、中学生にとっては儚い「夢」でしかなかった。
「アサヒカメラ」などカメラ雑誌の月例写真で、入選作や佳作に選ばれる作品の撮影に使われるカメラは、決まってキャノンやニコンなどの最高級カメラだった。或る号の読者の質問コーナーの中に、「月例写真はキャノンなどの高級カメラを使って撮影しなければ入選できないのでしょうか。」という、誠に勇敢な質問があった。普及型カメラ(今では死語?)しか持てなかった多くの読者が皆一度は訊いて見たみたかった疑問点であったろう。カメラ雑誌の回答者からは「決してそんなことはありません。」という答えが案の定返ってきていた。「入選作品のような優れた写真を撮るほどの人は、必然的に高級カメラを使わざるを得なくなるのです。」という趣旨だったと記憶している。
しかしである。ライカは、その存在感においてキヤノンやニコンとは初めっから桁が違っていた。国産の最高級カメラは庶民にとっては確かに「夢」ではあった。でも、ライカは正に「夢のまた夢」だった。なぜって、盛りそば一杯15円の時代に、ライカVfのズミクロンf2付が185,000円、ズマリットf1.5付が200,000円、ライカM3ともなると、ズミクロンf2にライカメーター(注:1954年にM3と同時に発売された初期のMETRA)付で、240,000円もした。夢のキャノンが2台も3台も買えたのだ。普通のカメラマンが「ああライカ!」と溜息をつくのは当然であった。
木村伊兵衛や土門拳のような名人達がライカを仕事用に使っているのは当たり前。でも、月例写真の入選作者の中にライカを使っているアマチュア・カメラマンが時折いた。余程の大金持ちか、その御曹子に違いなかった。また、中学3年の遠足のとき、ライカM3をぶら下げて来た生徒が2人もいた。あのケルン市での国際写真博覧会(フォトキナ)でデビュー、世界のカメラ業界をアッといわせた翌年にだ。仰天した。いつしか、「夢のまた夢」は、諦めとともに自分の前から儚く消え去り、カメラ少年の憧憬の心は次第に萎えていった。
爾来、幾星霜を重ね、齢60まであと2年足らずとなった正月の或る朝、とんでもない災難に遭った。これがきっかけで私はライカウィルスに感染することとなった。災難とは、急性心不全で緊急入院をしたことである。下手すれば死ぬところだった。この歳になって初めて、「死」とさほど遠くない距離にいることを実感した。毎日あくせく働いているだけじゃァ勿体ない。俺の人生だ。このまま詰まらなく終って堪るか。そろそろ永年の「夢」を何とか実現し、たった一度の人生をじっくり楽しもうではないか、と決意した。
退院して1ヶ月ほど経った頃、銀座松屋デパートで「世界の中古カメラ掘り出し市」が開催されていることをテレビのCMで知った。実は、数年前からライカ入手の願望が募り始めており、クラシック・カメラ関係でライカの写真や記事が載っている書籍などを買い求めては眺めていた。いつか、たまたま通りかかった銀座スキヤカメラのショーウィンドウの中に、ライカVf、M3、コンタックスVaが仲良く並べられていたのを見て、これを3台とも全部手に入れることが今の自分には決して不可能ではないし、とりあえず第一の目標にして見よう、と思ったことがあった。それもあってか、掘り出し市のCMを見た時、まず手始めにライカVfを手に入れよう、という気持ちに突如火がついた。この掘り出し市はライカを手に入れる絶好のチャンスだと思った。早速会場に駆け付け、「アカサカカメラ」でライカVfを、勢いに乗って、「マックカメラ」でコンタックスVaを衝動買い、そして3週間後には、新宿のライカ専門店「トーホーカメラ」でM3を手に入れた。少年時代の「夢のまた夢」が三ついっぺんに、1ヶ月足らずの間に現実となり、まるで夢を見ている様だった。こうして私は「ライカ病」に感染した。
少年時代の私は、一方ではキャノンWsbとニコンS2にも憧れていた。近年、クラシック・カメラに関心を抱き始めた時、長い間眠っていたこの欲望が目を覚ましたのだ。ライカやコンタックスを手に入れても、なお未だ、キャノンやニコンが欲しいと想い、いつかは手に入れたいと考えていた。この欲張り奴!
銀座松屋と同様の催しは、年に何回か都内のいろいろなデパートで開かれている。そこには開催期間中、都内有数のクラシック・カメラ専門店が一堂に会しているので、脚を棒にしてカメラ屋をあちこち訪ね歩かなくても済む。しかし、ニコンS2は割と見かけても、キャノンWsbはあまり見かけなかった。ともかく、中古カメラ市がある度に一応足を向けていた。還暦まであと数ヶ月に迫った昨年6月の初め、渋谷東急百貨店(東横店)が催した「世界の中古カメラ・フェア」で値段の手ごろなニコンS2(f1.4付)とキャノンWsb(f1.8付)を発見した。また、同じ店の別のウィンドウにはライカUfのボディーも陳列されていた。私は、定年になるまで家族の生活を心配しながら懸命になって働いてきた自分自身へのせめてものご褒美に・・・と、(自分勝手な理屈をつけながら)3日3晩考えた末、勤めの帰り、まだ開催中の東急百貨店に立ち寄り、その3台を一度に購入してしまった。
かくして・・・ライカM3(Mエルマーf2.8付)、ライカVf(赤シンクロ、ズミクロンf2付)、コンタックスVa(ズノーf1.5付)、ニコンS2(ニッコールf1.4付)、キャノンWsb(キャノンf1.8付)、おまけに、ライカUf(赤シンクロ、1/500、赤エルマーf3.5付)というラインナップとなった次第。この6台が今、我が家のガラス・ケースの中に、高級カメラ専門店のショー・ウィンドウさながらに陳列されている。
何と贅沢極まりないその眺め!
毎日好きな時に、我が家にいながらにして絢爛豪華なウィンドウ・ショッピングを楽しむことができる! しかも、どのカメラだって、店員に何の気遣いもすることなく、勝手にウィンドウから取り出し、その美しい姿を愛で、その重量感を味わい、それを眼の高さに構え、ヘリコイドを回し、思う存分空シャッターを切れるのだ!
嗚呼、遠い昔のカメラ少年が、あきらめ顔して密かに見ていた、「夢」と、「夢のまた夢」が、いま、実現したんだよ。まだこの世に生きている時に!
ところで、カメラっちゅうのは写真を撮る道具なんだよネェ・・・。 (完)
密林王ターザンさんへ。 投稿者:G5さん 投稿日:2003年 2月10日(月)00時56分45秒
こんばんはじめて来ました。みなさん宜しくお願いします。
突然ですがすみません、私みなさんのレスを今からぶったぎってしまうかもしれません...。
え〜、ターザンさんの夢の話を読ませていただきました。
感動しました。こんな夜中にひとりで涙がなぜか止まりません。
私は、文章で泣いたことは記憶にはありません。
私PC暦10年になりますが、いてもたってもいられず興奮してはじめてこういった掲示板に書かせていただいています。
だれしも憧れるものがあると思いますが、私もライカに憧れ始めた31歳です。
まだ写真をはじめて5年くらいですが(おそいですね...)。私はデジカメから入りました。(ちょっとおはずかしい...)
撮るにつれだんだんフィルムの良さに引き付けられ、いきなり中判!ブロニカを買ってしまいました。
最近どうにかいじれるようになり?とても楽しんでいます。
それからSX70、dial35とわけわからないものを買いました。
お気付きかとおもいますが、まともな35mmを持ってません...。
で、いろいろ調べていたらライカIIIやM3がかっこいい!と...。
どうやら私の好みはルックスであるようです。みなさんもそうかな?
で、このページを見つけました。そして永き夢を描いたお話をみることができました。
純粋に単純に私もいつか...。と思ってしまいました。
ま、今は事業を失敗してしまい買えるどころの話ではないのですが...(笑)。
カメラにまつわる話っていろいろ見たり聞いたりしますが、写真もよいのですが、カメラってもっとよいですよね。
ショーケースにいれて眺めてしまう心境、お察しいたします。
こんな素敵な人たちがいるこのサイト、万歳!
掲示板にこんな長い乱文すみません...。また、来ます。
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